Linuxとは
Linuxとは、1991年にフィンランドのヘルシンキ大学の学生であったLinus Torvalds(リーナス・トーバルズ)によって開発が始められたオープンソースのオペレーティングシステム(OS)カーネルです。正確には「Linux」はカーネル(OSの中核部分)を指し、GNU/Linuxと呼ばれるシステム全体がオペレーティングシステムとして機能します。
Linuxカーネルは現在も活発に開発が続けられており、2026年1月時点での最新安定版は6.18.3、mainline版は6.19-rc4となっています。世界中の1,000人以上の開発者がこのプロジェクトに貢献しています。
Linuxの特徴
Linuxには以下のような特徴があります。
- オープンソース: ソースコードが公開されており、誰でも自由に利用・改変・再配布できます
- マルチプラットフォーム: x86_64、ARM、RISC-Vなど多様なハードウェアで動作します
- 高い安定性: サーバー用途で長期間連続稼働できる信頼性を持ちます
- セキュリティ: 権限管理が厳格で、脆弱性への対応も迅速です
- 無料: ライセンス費用なしで利用できます
Linuxカーネルの誕生と歴史
UNIXからLinuxへ
Linuxを理解するには、まずUNIXの歴史を知る必要があります。
timeline
title LinuxとUNIXの歴史
1969 : UNIXがAT&Tベル研究所で誕生
1983 : Richard StallmanがGNUプロジェクトを開始
1991 : Linus TorvaldsがLinuxカーネルを公開
1993 : DebianとSlackwareがリリース
1994 : Linux 1.0リリース
2004 : Ubuntu初版リリース
2020 : CentOS終了発表、Rocky Linux/AlmaLinux誕生1969年にAT&Tベル研究所でUNIXが開発されました。UNIXは商用ライセンスが必要なプロプライエタリなOSでしたが、その設計思想は多くのエンジニアに影響を与えました。
1983年、Richard Stallman(リチャード・ストールマン)がGNUプロジェクトを開始し、フリーソフトウェアとしてのOS環境を構築する試みが始まりました。GNUはシェル、コンパイラ、テキストエディタなど多くのツールを提供しましたが、カーネルの開発は難航していました。
Linuxカーネルの誕生
1991年8月25日、当時21歳の大学生だったLinus Torvaldsは、Usenetのcomp.os.minixニュースグループに投稿を行い、自作のOS(後のLinux)について発表しました。
この投稿では、386(486)AT互換機向けのフリーなOSを趣味で開発していると説明されていました。当初はMINIX(教育用のUNIX互換OS)の代替として始まったこのプロジェクトは、GNUプロジェクトのツール群と組み合わさることで、完全なフリーのOS環境として急速に発展しました。
バージョンの進化
Linuxカーネルは継続的に開発が進められ、現在も活発なプロジェクトです。
| バージョン | リリース年 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 1.0 | 1994年 | 最初の安定版リリース |
| 2.0 | 1996年 | SMP(対称型マルチプロセッシング)サポート |
| 2.6 | 2003年 | 大規模な改良、長期サポート開始 |
| 3.0 | 2011年 | バージョン番号体系の変更 |
| 4.0 | 2015年 | ライブパッチ機能 |
| 5.0 | 2019年 | AMD FreeSyncサポート等 |
| 6.0 | 2022年 | Rust言語サポート開始 |
| 6.18 | 2025年 | 現在のstable版(2026年1月時点で6.18.3) |
ディストリビューションとは
Linuxカーネル単体ではOSとして機能しません。シェル、ユーティリティ、パッケージ管理システム、デスクトップ環境などを組み合わせて、実際に使えるOSとしてパッケージ化したものを**ディストリビューション(ディストロ)**と呼びます。
graph TD
A[Linuxカーネル] --> B[ディストリビューション]
B --> C[Debian系]
B --> D[Red Hat系]
B --> E[Arch系]
B --> F[独立系]
C --> G[Debian]
C --> H[Ubuntu]
C --> I[Linux Mint]
D --> J[RHEL]
D --> K[AlmaLinux]
D --> L[Rocky Linux]
D --> M[Fedora]
E --> N[Arch Linux]
E --> O[Manjaro]
F --> P[openSUSE]
F --> Q[Gentoo]主要ディストリビューションの比較
Debian
1993年にIan Murdockによって開始されたDebianは、最も歴史のあるディストリビューションの一つです。安定性を重視した開発方針で知られ、70,000以上のパッケージを提供しています。
特徴:
- 安定性を最優先した開発方針
- APT(Advanced Package Tool)による高度なパッケージ管理
- 完全にフリーソフトウェアで構成(非フリーリポジトリも利用可能)
- Ubuntuを含む多くの派生ディストリビューションの基盤
Ubuntu
2004年にMark Shuttleworthが設立したCanonical社によって開発が開始されました。Debianをベースとしながら、使いやすさを重視しています。
特徴:
- 6ヶ月ごとの定期リリース
- 2年ごとにLTS(Long Term Support)版をリリース(5年間の標準サポート)
- デスクトップ用途からサーバー、クラウドまで幅広く対応
- 初心者にも扱いやすいインストーラとデスクトップ環境
現行のLTS版は以下の通りです(2026年1月時点)。
| バージョン | コードネーム | リリース日 | 標準サポート終了 |
|---|---|---|---|
| 24.04 LTS | Noble Numbat | 2024年4月 | 2029年4月 |
| 22.04 LTS | Jammy Jellyfish | 2022年4月 | 2027年4月 |
AlmaLinux
2020年12月にRed Hat社がCentOS Linuxの開発終了を発表したことを受けて誕生したディストリビューションです。RHEL(Red Hat Enterprise Linux)とのバイナリ互換性を維持しています。
特徴:
- RHELとのバイナリ互換性
- CloudLinux社による年間100万ドルのスポンサーシップ
- エンタープライズ環境での利用を想定した長期サポート
- CentOSからの移行が容易
Rocky Linux
CentOSの共同創設者であるGregory Kurtzerが2020年12月に立ち上げたディストリビューションです。CentOSの精神を継承し、RHELの完全な代替を目指しています。
特徴:
- CentOSの共同創設者による開発
- Rocky Enterprise Software Foundation(RESF)による運営
- RHELとの互換性を重視
- 企業での本番運用に適した安定性
Arch Linux
2002年にJudd Vinetによって開発が始まったArch Linuxは、シンプルさと最新性を追求したディストリビューションです。
特徴:
- ローリングリリースモデル(継続的なアップデート)
- 最小限のベースシステムからユーザーが環境を構築
- Pacmanによる高速なパッケージ管理
- 充実したドキュメント(ArchWiki)
- 上級者向けの設計思想
ディストリビューション選択のポイント
目的に応じて適切なディストリビューションを選択することが重要です。
flowchart TD
A[用途は?] --> B{サーバー?}
A --> C{デスクトップ?}
A --> D{学習目的?}
B --> E{安定性重視?}
E -->|はい| F[AlmaLinux/Rocky Linux/Debian]
E -->|最新機能| G[Ubuntu Server/Fedora]
C --> H{初心者?}
H -->|はい| I[Ubuntu/Linux Mint]
H -->|経験者| J[Arch Linux/Fedora]
D --> K{基礎から?}
K -->|はい| L[Arch Linux/Gentoo]
K -->|実践的| M[Ubuntu/Debian]| 用途 | 推奨ディストリビューション | 理由 |
|---|---|---|
| 初めてのLinux | Ubuntu, Linux Mint | 使いやすさとコミュニティサポートが充実 |
| Webサーバー | Ubuntu Server, AlmaLinux | 安定性とセキュリティアップデートの継続性 |
| 開発環境 | Ubuntu, Fedora | 最新のツールチェーンが利用可能 |
| エンタープライズ | RHEL, AlmaLinux, Rocky Linux | 長期サポートとエンタープライズ向け機能 |
| Linuxの深い理解 | Arch Linux, Gentoo | システムを一から構築する経験が得られる |
WindowsやmacOSとの違い
Linux、Windows、macOSはそれぞれ異なる設計思想を持つOSです。
アーキテクチャの違い
graph TB
subgraph Linux
LK[Linuxカーネル] --> LD[ディストリビューション]
LD --> LDE[デスクトップ環境]
LDE --> LA[アプリケーション]
end
subgraph Windows
WK[Windows NT カーネル] --> WS[Windowsシステム]
WS --> WDE[Windows Shell]
WDE --> WA[アプリケーション]
end
subgraph macOS
MK[XNU カーネル] --> MD[Darwin]
MD --> MA[Aqua/Cocoa]
MA --> MAP[アプリケーション]
end詳細比較
| 項目 | Linux | Windows | macOS |
|---|---|---|---|
| ライセンス | オープンソース(GPL) | プロプライエタリ | プロプライエタリ |
| 価格 | 無料 | 有料 | ハードウェアに含まれる |
| カーネル | Linux | Windows NT | XNU (Mach + BSD) |
| ソースコード | 公開 | 非公開 | 一部公開(Darwin) |
| デスクトップ環境 | 選択可能(GNOME, KDE等) | Windows Shell固定 | Aqua固定 |
| パッケージ管理 | apt, dnf, pacman等 | なし(ストアあり) | Homebrew(非公式) |
| サーバーシェア | 約60%(Webサーバー) | 約28% | 約1% |
| 主な用途 | サーバー, 開発, 組み込み | デスクトップ, ゲーム | クリエイティブ, 開発 |
設計思想の違い
Linuxは「すべてはファイル」という哲学に基づいています。デバイス、プロセス情報、設定ファイルなどがファイルシステムを通じてアクセスでき、テキストベースの設定ファイルとコマンドラインツールの組み合わせでシステムを制御します。
WindowsはGUIを中心とした操作性を重視し、レジストリという中央集権的な設定管理を採用しています。後方互換性を重視する設計で、古いアプリケーションも動作しやすい傾向があります。
macOSはUNIXベース(BSD系)でありながら、一貫したユーザー体験を提供するためにハードウェアとソフトウェアを統合しています。開発者向けにはTerminal.appからUNIXコマンドが利用できます。
Linuxが使われている場面
Linuxは私たちの生活の様々な場面で利用されています。
サーバー・クラウド環境
W3Techsの調査によると、WebサーバーのOS市場において、UNIXベースのシステムは約90.7%のシェアを持ち、そのうちLinuxは約59.9%を占めています。
主要なクラウドプロバイダーもLinuxを広く採用しています。
- Amazon Web Services(AWS): EC2インスタンスの多くがLinuxベース
- Google Cloud Platform: 内部インフラもLinuxで運用
- Microsoft Azure: Ubuntu, RHEL系などを公式サポート
pie title Webサーバー OSシェア(W3Techs調べ)
"Linux" : 59.9
"その他Unix" : 30.8
"Windows" : 9.3コンテナ・Kubernetes
コンテナ技術の基盤となるDockerやKubernetesは、Linuxカーネルの機能(cgroups、namespaces)を活用しています。クラウドネイティブなアプリケーション開発において、Linuxは不可欠な存在です。
IoT・組み込みシステム
Linuxは軽量でカスタマイズ性が高いため、IoTデバイスや組み込みシステムでも広く採用されています。
- ルーター、ネットワーク機器
- スマートTV
- 産業用制御システム
- 医療機器
Android
世界で最も普及しているモバイルOS「Android」は、Linuxカーネルをベースにしています。スマートフォン、タブレット、スマートウォッチなど、数十億台のデバイスがLinuxカーネル上で動作しています。
スーパーコンピュータ
世界のスーパーコンピュータの上位500台(TOP500)のほぼすべてがLinuxで稼働しています。日本の「富岳」も例外ではありません。
graph LR
A[Linux活用分野]
A --> B[サーバー・クラウド]
A --> C[コンテナ・K8s]
A --> D[IoT・組み込み]
A --> E[Android]
A --> F[スーパーコンピュータ]
A --> G[開発環境]
B --> B1[Webサーバー]
B --> B2[データベース]
B --> B3[アプリケーションサーバー]
D --> D1[ルーター]
D --> D2[スマートTV]
D --> D3[産業機器]Linuxを学ぶメリット
エンジニアとしてのスキル向上
サーバー管理、クラウドインフラ、DevOps、コンテナ技術など、現代のIT基盤を理解するためにLinuxの知識は必須です。以下のような技術領域でLinuxが活用されています。
- インフラエンジニア: サーバー構築・運用
- バックエンドエンジニア: 本番環境での動作確認
- DevOpsエンジニア: CI/CDパイプライン構築
- SRE: システム信頼性の確保
コスト削減
ライセンス費用が不要なため、特に多数のサーバーを運用する環境でコストメリットがあります。
カスタマイズ性
ソースコードが公開されているため、必要に応じてカーネルやシステムをカスタマイズできます。組み込みシステムや特殊な要件を持つ環境で特に有効です。
まとめ
Linuxは1991年にLinus Torvaldsによって開発が始められたオープンソースのOSカーネルです。現在ではサーバー、クラウド、IoT、モバイル(Android)など幅広い分野で利用されており、IT基盤を支える重要な技術となっています。
目的に応じて適切なディストリビューションを選択することが重要です。初心者であればUbuntu、サーバー用途であればAlmaLinuxやRocky Linux、深い理解を得たい場合はArch Linuxがおすすめです。
次回の記事では、実際にLinux学習環境を構築する方法(WSL2、仮想マシン、クラウド)について解説します。
参考リンク
- The Linux Kernel Archives - Linuxカーネルの公式サイト
- Debian公式サイト - Debianプロジェクト公式
- Ubuntu公式サイト - Canonical社によるUbuntu公式
- AlmaLinux公式サイト - AlmaLinux OS Foundation
- Rocky Linux公式サイト - Rocky Enterprise Software Foundation
- Arch Linux Wiki - Arch Linuxの包括的なドキュメント
- GNU プロジェクト - GNUプロジェクト公式サイト