Linux学習環境の選択肢

Linuxを学習するためには、まず実際にLinuxを操作できる環境を用意する必要があります。現在、Linux学習環境を構築する方法は主に以下の4つがあります。

  • WSL2(Windows Subsystem for Linux 2): Windows上で直接Linuxを動作させる
  • 仮想マシン(VirtualBox / VMware): ホストOS上に仮想的なLinux環境を構築する
  • クラウドサービス(AWS EC2 / さくらVPS): リモートサーバー上にLinux環境を構築する
  • 物理マシンへの直接インストール: PCにLinuxを直接インストールする

本記事では、それぞれの方法について具体的なセットアップ手順とメリット・デメリットを解説します。

Linux学習環境の比較表

各環境の特徴を把握してから選択することで、学習効率を最大化できます。

項目 WSL2 VirtualBox AWS EC2 さくらVPS
初期コスト 無料 無料 無料枠あり 月額643円~
セットアップ難易度
起動速度 高速 中程度 高速 高速
GUI対応 限定的 完全対応 限定的 限定的
実務への近さ
ネットワーク学習 限定的 可能 最適 最適
flowchart TD
    A[Linux学習を始めたい] --> B{目的は?}
    B -->|コマンド操作を手軽に学びたい| C[WSL2がおすすめ]
    B -->|GUIも含めて学びたい| D[VirtualBoxがおすすめ]
    B -->|サーバー運用を学びたい| E{予算は?}
    E -->|無料で始めたい| F[AWS EC2 無料枠]
    E -->|安定した環境が欲しい| G[さくらVPS]

WSL2によるLinux環境構築

WSL2(Windows Subsystem for Linux 2)は、Windows 10/11上でLinuxを直接実行できる機能です。仮想マシンと比較して軽量で高速に動作するため、手軽にLinuxを学習したい方に最適です。

WSL2の動作要件

WSL2を利用するには、以下の要件を満たす必要があります。

  • OS: Windows 10 バージョン2004以降(ビルド19041以降)またはWindows 11
  • CPU: 64ビットプロセッサ(仮想化機能対応)
  • メモリ: 4GB以上(8GB以上推奨)
  • ストレージ: 空き容量10GB以上

WSL2のインストール手順

WSL2のインストールは、PowerShellから1つのコマンドで完了します。

  1. スタートメニューから「PowerShell」を右クリックし、「管理者として実行」を選択します

  2. 以下のコマンドを実行します

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wsl --install
  1. インストール完了後、PCを再起動します

  2. 再起動後、自動的にUbuntuが起動し、ユーザー名とパスワードの設定を求められます

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Enter new UNIX username: your_username
New password: 
Retype new password:

WSL2で利用可能なディストリビューション

デフォルトではUbuntuがインストールされますが、他のディストリビューションも選択できます。

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# 利用可能なディストリビューション一覧を表示
wsl --list --online

# 特定のディストリビューションをインストール
wsl --install -d Debian

2026年1月時点で利用可能な主なディストリビューションは以下の通りです。

ディストリビューション 用途・特徴
Ubuntu 24.04 LTS 初心者向け、情報が豊富
Debian 安定性重視、サーバー用途
openSUSE 企業向け、YaSTによる管理
Kali Linux セキュリティ学習用

WSL2の基本操作

WSL2環境の管理に使用する主要なコマンドを紹介します。

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# インストール済みディストリビューション一覧とバージョン確認
wsl --list --verbose

# 特定のディストリビューションを起動
wsl -d Ubuntu

# WSLをシャットダウン
wsl --shutdown

# デフォルトのディストリビューションを変更
wsl --set-default Ubuntu

WSL2のメリットとデメリット

メリット

  • Windowsとの高い親和性(ファイルシステムの相互アクセスが可能)
  • 起動が高速(数秒で利用可能)
  • メモリ・CPU使用量が軽量
  • Visual Studio Codeとのシームレスな連携

デメリット

  • 完全なLinux環境ではない(一部のシステムコールに制限あり)
  • GUIアプリケーションの利用には追加設定が必要
  • systemdの動作に制限がある(WSL2 0.67.6以降で対応)
  • ネットワーク設定がWindowsに依存する

VirtualBoxによる仮想マシン構築

VirtualBoxは、Oracle社が提供する無料の仮想化ソフトウェアです。完全なLinux環境をGUI込みで体験できるため、デスクトップ環境も含めて学習したい方に適しています。

VirtualBoxの動作要件

  • OS: Windows 10/11、macOS、Linux
  • CPU: Intel VT-xまたはAMD-V対応プロセッサ
  • メモリ: 8GB以上(ホストOS + 仮想マシン用)
  • ストレージ: 仮想マシン1台あたり25GB以上

VirtualBoxのインストール手順

  1. VirtualBox公式サイトからWindows hosts用インストーラをダウンロードします(2026年1月時点の最新版は7.2.4)

  2. ダウンロードしたインストーラを実行し、画面の指示に従ってインストールします

  3. インストール中に「ネットワーク接続が一時的に切断される」という警告が表示されますが、「はい」を選択して続行します

Ubuntu ISOイメージのダウンロード

VirtualBoxにインストールするLinuxのISOイメージを取得します。

  1. Ubuntu公式サイトにアクセスします

  2. 「Ubuntu 24.04.3 LTS」をダウンロードします(約5.9GB)

LTS(Long Term Support)版は5年間のサポートが保証されているため、学習用途に適しています。

仮想マシンの作成

  1. VirtualBoxを起動し、「新規」ボタンをクリックします

  2. 以下の設定で仮想マシンを作成します

項目 設定値
名前 Ubuntu-Learning
タイプ Linux
バージョン Ubuntu (64-bit)
メモリ 4096MB以上
ハードディスク 仮想ハードディスクを作成する
ディスクサイズ 25GB以上
  1. 作成した仮想マシンを選択し、「設定」から以下を調整します
  • システム > プロセッサー: 2CPU以上を割り当て
  • ディスプレイ > スクリーン: ビデオメモリを128MB以上に設定
  • ストレージ: コントローラー: IDEの「空」を選択し、ダウンロードしたUbuntu ISOを設定

Ubuntuのインストール

  1. 仮想マシンを起動し、「Try or Install Ubuntu」を選択します

  2. 言語選択で「日本語」を選択します

  3. 「Ubuntuをインストール」を選択し、画面の指示に従ってインストールを進めます

  4. インストール完了後、再起動してログインします

VirtualBoxのメリットとデメリット

メリット

  • 完全なLinux環境を再現可能
  • GUIデスクトップ環境を含めて学習できる
  • スナップショット機能で状態を保存・復元できる
  • 複数のディストリビューションを並行して試せる

デメリット

  • ホストマシンのリソースを多く消費する
  • 起動に時間がかかる(30秒~1分程度)
  • 3Dグラフィックス性能が制限される
  • ファイル共有には追加設定(Guest Additions)が必要

VMware Workstation Playerによる構築

VMware Workstation Playerは、VMware社が提供する仮想化ソフトウェアです。個人利用および非商用利用は無料で、VirtualBoxと比較してパフォーマンスが高いとされています。

VMware Workstation Playerのインストール

  1. VMware公式サイトからインストーラをダウンロードします

  2. インストーラを実行し、「非商用利用」を選択してインストールを完了します

  3. 仮想マシンの作成手順はVirtualBoxと同様です

VMwareを選択する主な理由は、以下の場合です。

  • より高いパフォーマンスが必要な場合
  • 企業でVMware製品を使用している場合
  • Hyper-Vとの共存が必要な場合

AWS EC2によるクラウドLinux環境

AWS EC2(Elastic Compute Cloud)は、Amazon Web Servicesが提供するクラウドコンピューティングサービスです。実際のサーバー運用に近い形でLinuxを学習できます。

AWS無料利用枠について

AWSでは、新規アカウント作成から12か月間、以下の無料利用枠が提供されます。

  • EC2: t2.microまたはt3.microインスタンス 月750時間
  • EBS: 30GBのストレージ
  • データ転送: 月100GBまで

2025年7月15日以降に作成されたアカウントでは、6か月間の無料クレジットが提供されます。

AWSアカウントの作成

  1. AWS公式サイトにアクセスし、「無料アカウントを作成」をクリックします

  2. メールアドレス、パスワード、アカウント名を入力します

  3. クレジットカード情報を登録します(無料枠内であれば課金されません)

  4. 電話番号認証を完了します

EC2インスタンスの起動

  1. AWSマネジメントコンソールにログインし、EC2ダッシュボードを開きます

  2. 「インスタンスを起動」をクリックします

  3. 以下の設定でインスタンスを作成します

項目 設定値
名前 linux-learning
AMI Amazon Linux 2023 または Ubuntu 24.04 LTS
インスタンスタイプ t2.micro(無料枠対象)
キーペア 新しいキーペアを作成
ネットワーク設定 SSHトラフィックを許可
  1. キーペアを作成し、秘密鍵(.pemファイル)を安全な場所に保存します

EC2インスタンスへのSSH接続

Windowsの場合、PowerShellまたはWindows Terminalから接続できます。

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# 秘密鍵のパーミッションを変更(WSL2の場合)
chmod 400 ~/Downloads/your-key.pem

# EC2インスタンスに接続
ssh -i ~/Downloads/your-key.pem ec2-user@<パブリックIPアドレス>

Amazon Linux 2023の場合はユーザー名がec2-user、Ubuntuの場合はubuntuとなります。

セキュリティグループの設定

本番環境では、セキュリティグループで接続元IPアドレスを制限することが重要です。

  1. EC2コンソールで「セキュリティグループ」を選択します

  2. 該当するセキュリティグループの「インバウンドルール」を編集します

  3. SSH(ポート22)のソースを「マイIP」に変更します

AWS EC2のメリットとデメリット

メリット

  • 実際のクラウド環境でLinuxを学習できる
  • サーバー運用・インフラ構築のスキルが身につく
  • 無料枠で12か月間(または6か月間)学習可能
  • 複数リージョンでの構築を体験できる

デメリット

  • 無料枠を超えると課金される
  • クレジットカードの登録が必須
  • ネットワーク設定の知識が必要
  • インスタンスの停止忘れによる課金リスク

さくらVPSによるLinuxサーバー構築

さくらVPSは、さくらインターネット株式会社が提供する国内VPSサービスです。日本語サポートが充実しており、初心者でも始めやすいのが特徴です。

さくらVPSの料金プラン

2026年1月時点の主な料金プランは以下の通りです。

プラン メモリ CPU ストレージ 月額料金
512MB 512MB 1コア 25GB 643円
1GB 1GB 2コア 50GB 880円
2GB 2GB 3コア 100GB 1,738円

学習目的であれば、512MBまたは1GBプランで十分です。

さくらVPSの申し込み手順

  1. さくらVPS公式サイトにアクセスします

  2. 「お申し込み」をクリックし、プランを選択します

  3. OSとして「Ubuntu 24.04」または「AlmaLinux 9」を選択します

  4. 支払い方法を登録し、申し込みを完了します

さくらVPSへの接続

サーバーが起動したら、コントロールパネルからIPアドレスと初期パスワードを確認します。

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# SSHで接続
ssh root@<サーバーIPアドレス>

初回接続時には、必ず以下のセキュリティ設定を行います。

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# rootパスワードの変更
passwd

# 一般ユーザーの作成
adduser your_username

# sudo権限の付与
usermod -aG sudo your_username

# SSHの公開鍵認証を設定(推奨)

さくらVPSのメリットとデメリット

メリット

  • 日本語サポートが充実
  • 固定料金で予算管理がしやすい
  • コントロールパネルが使いやすい
  • 国内サーバーで低レイテンシ

デメリット

  • 無料枠がない(2週間の無料お試し期間あり)
  • AWSほどの機能拡張性がない
  • スケールアップにはプラン変更が必要

学習目的別のおすすめ環境

コマンド操作を基礎から学びたい場合

WSL2(Ubuntu)がおすすめです。

理由は以下の通りです。

  • 無料で即座に始められる
  • Windowsとの併用が容易
  • 起動が高速で学習の敷居が低い
  • Visual Studio Codeとの連携が優秀

Linux資格(LPIC / LinuC)取得を目指す場合

VirtualBoxでの複数ディストリビューション環境がおすすめです。

理由は以下の通りです。

  • 試験範囲のコマンドを実際に試せる
  • スナップショットで状態を保存・復元できる
  • 異なるディストリビューションの違いを体験できる

サーバー運用・インフラエンジニアを目指す場合

AWS EC2 + さくらVPSの併用がおすすめです。

理由は以下の通りです。

  • 実際のサーバー運用に近い環境
  • ネットワーク設定、セキュリティ設定を実践できる
  • クラウドとオンプレミスの両方を経験できる

環境構築後の次のステップ

Linux学習環境を構築したら、以下の順序で学習を進めることをおすすめします。

  1. ターミナルの基本操作: シェルの使い方、プロンプトの読み方
  2. ファイル操作コマンド: ls、cd、mkdir、cp、mv、rm
  3. テキスト処理コマンド: cat、less、grep、head、tail
  4. パーミッションとユーザー管理: chmod、chown、useradd
  5. パッケージ管理: apt(Ubuntu)、dnf(AlmaLinux)
  6. シェルスクリプト: 自動化の基礎

まとめ

Linux学習環境の構築方法として、WSL2、VirtualBox、AWS EC2、さくらVPSの4つの選択肢を紹介しました。それぞれに特徴があり、学習目的によって最適な選択肢が異なります。

  • 手軽さを重視するなら: WSL2
  • 完全なLinux環境が必要なら: VirtualBox
  • 実務スキルを身につけたいなら: AWS EC2またはさくらVPS

まずはWSL2またはVirtualBoxで基礎を固め、慣れてきたらクラウド環境に挑戦するという段階的なアプローチがおすすめです。

参考リンク