はじめに

大規模な機能実装やリファクタリングでは、計画的なタスク分解と安全な変更管理が不可欠です。Cursor AgentのTo-do機能は、複雑なタスクを構造化されたリストに分解し、段階的に実行する機能を提供します。また、チェックポイント機能により、任意の時点の状態を保存し、問題発生時に安全にロールバックできます。

本記事では、To-doとチェックポイントを活用したタスク管理方法を解説します。この記事を読むことで、以下のことができるようになります。

  • To-do機能による構造化されたタスクリストの作成
  • 複雑なプロジェクトの効果的な作業分解
  • チェックポイントによる変更履歴の管理
  • 問題発生時の安全なロールバック

実行環境と前提条件

実行環境

項目 要件
オペレーティングシステム Windows 10以上、macOS 10.15以上、Ubuntu 20.04以上
Cursor バージョン 2.3以降(2026年1月時点の安定版)
インターネット接続 必須(AIモデル利用に必要)
料金プラン Pro以上推奨(大規模タスクの場合)

前提条件

  • Cursor Agentの基本操作を理解していること
  • Gitの基本操作(commit、branchなど)を理解していること
  • 対象プロジェクトをCursorで開いていること

To-do機能の概要

To-do機能は、Cursor 2.0で導入されたPlan Modeの中核機能です。Agentに複雑なタスクを依頼すると、自動的にTo-doリストを生成し、各項目を順番に実行します。

Plan Modeとは

Plan Modeは、Agentがタスクを実行する前に計画を立て、ユーザーの承認を得てから実行するモードです。従来の即時実行モードと異なり、以下の利点があります。

  • タスク全体の見通しが立つ
  • 実行前に計画をレビュー・修正できる
  • 各ステップの進捗を追跡できる
  • 問題発生時に特定のステップに戻れる

To-doリストの構造

Agentが生成するTo-doリストは、以下のような構造を持ちます。

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To-do リスト: ユーザー認証機能の実装

[x] 1. データベーススキーマの設計
    - usersテーブルの定義
    - sessionsテーブルの定義

[x] 2. 認証サービスの実装
    - パスワードハッシュ化
    - トークン生成・検証

[ ] 3. APIエンドポイントの作成
    - POST /api/auth/register
    - POST /api/auth/login
    - POST /api/auth/logout

[ ] 4. ミドルウェアの実装
    - 認証チェック
    - レート制限

[ ] 5. テストの作成
    - 単体テスト
    - 統合テスト

各項目は、完了状態を [x] または [ ] で表示します。

To-doリストの作成

To-doリストを効果的に作成するための方法を解説します。

自動生成による作成

複雑なタスクを依頼すると、Agentは自動的にTo-doリストを生成します。

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プロンプト:
このプロジェクトにStripe決済機能を実装してください。
サブスクリプション管理、請求書発行、Webhook処理を含めてください。

Agentは上記の指示から、以下のようなTo-doリストを自動生成します。

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To-do リスト: Stripe決済機能の実装

[ ] 1. Stripe SDKのインストールと設定
    - パッケージのインストール
    - 環境変数の設定
    - Stripeクライアントの初期化

[ ] 2. 顧客管理機能の実装
    - Stripe顧客の作成
    - 既存顧客との紐付け
    - 顧客情報の更新

[ ] 3. サブスクリプション管理
    - プラン作成
    - サブスクリプション開始
    - プラン変更
    - キャンセル処理

[ ] 4. 請求書機能
    - 請求書の自動生成
    - PDF出力
    - メール送信

[ ] 5. Webhook処理
    - エンドポイント作成
    - イベント検証
    - 各種イベントハンドラー

[ ] 6. テストとドキュメント
    - テストケース作成
    - APIドキュメント更新

手動での計画作成依頼

より詳細な計画が必要な場合は、明示的にTo-doリストの作成を依頼できます。

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プロンプト:
以下の機能を実装する前に、詳細な実装計画をTo-doリストとして作成してください。
実装は行わず、計画のみを提示してください。

機能: マルチテナント対応
- テナントごとのデータ分離
- テナント固有の設定管理
- 管理者向けダッシュボード

計画の修正と承認

Agentが生成した計画は、実行前に修正できます。

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プロンプト:
計画を以下のように修正してください:
- ステップ2と3の順序を入れ替え
- ステップ4にキャッシュ機能を追加
- ステップ6を削除

計画に問題がなければ、「この計画で進めてください」と承認することで、Agentが順次実行を開始します。

Plan Modeの高度な活用

Cursor 2.1および2.2で導入された改善により、Plan Modeはさらに強力になりました。

インラインMermaid図の生成

Cursor 2.2では、Plan ModeがインラインMermaid図に対応しました。Agentはプラン内にビジュアルを自動生成し、アーキテクチャや処理フローを視覚的に示します。

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プロンプト:
マイクロサービス間の通信フローを設計し、
Mermaid図で可視化した計画を作成してください。

Agentは以下のような図を含む計画を生成します。

sequenceDiagram
    participant Client
    participant Gateway
    participant AuthService
    participant UserService
    participant DB

    Client->>Gateway: POST /api/login
    Gateway->>AuthService: Validate credentials
    AuthService->>UserService: Get user info
    UserService->>DB: Query user
    DB-->>UserService: User data
    UserService-->>AuthService: User info
    AuthService-->>Gateway: JWT token
    Gateway-->>Client: Login response

確認用質問による計画品質の向上

Cursor 2.1では、計画作成時にAgentが確認用の質問を投げかけるようになりました。これにより、曖昧な要件を明確化し、計画の品質が向上します。

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Agent からの質問:
以下の点を確認させてください:

1. 認証方式はJWTベースで良いですか?それともセッションベースですか?
2. パスワードリセット機能は必要ですか?
3. 2段階認証(2FA)のサポートは必要ですか?
4. ソーシャルログイン(Google、GitHub等)は必要ですか?

回答をお願いします。

これらの質問に回答することで、より正確な計画が生成されます。

選択したTo-doを新しいAgentに送信

Cursor 2.2では、計画内の選択したTo-doを新しいAgentに送信するオプションが追加されました。これにより、以下のようなワークフローが可能です。

  1. 全体計画を作成
  2. 特定のTo-do項目を選択
  3. 新しいAgentセッションでその項目を実行
  4. 元の計画に戻って次の項目へ

この機能は、複雑なタスクを複数のAgentで分担する場合に有効です。

複雑なプロジェクトの作業分解

大規模な機能実装やリファクタリングでは、適切な作業分解が成功の鍵です。

作業分解の原則

効果的な作業分解には、以下の原則が重要です。

原則 説明
単一責任 各タスクは1つの責任のみ 「認証」と「認可」を分離
依存関係の明確化 タスク間の依存を明示 「DBスキーマ→サービス→API」
テスト可能性 各タスクの完了を検証可能に 「単体テストが通る」を完了条件に
適切な粒度 大きすぎず小さすぎず 1-4時間で完了する規模

機能実装の分解例

新機能を実装する際の一般的な分解パターンを示します。

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機能: 通知システムの実装

Phase 1: 基盤構築
├── データベーススキーマ設計
├── 基本モデルの実装
└── リポジトリパターンの適用

Phase 2: コア機能
├── 通知サービスの実装
├── テンプレートエンジンの統合
└── 配信チャネル(メール、プッシュ)の実装

Phase 3: API層
├── REST APIエンドポイント
├── WebSocket接続
└── 認証・認可の統合

Phase 4: フロントエンド
├── 通知コンポーネント
├── リアルタイム更新
└── 設定画面

Phase 5: 運用準備
├── 監視・ログ設定
├── ドキュメント作成
└── パフォーマンステスト

リファクタリングの分解例

既存コードのリファクタリングでは、リスクを最小化する分解が重要です。

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リファクタリング: モノリスからサービス分離

Phase 1: 準備(リスク:低)
├── テストカバレッジの向上
├── 依存関係の可視化
└── インターフェースの定義

Phase 2: 境界の設定(リスク:低)
├── モジュール境界の明確化
├── 内部APIの整理
└── データアクセスの分離

Phase 3: 段階的分離(リスク:中)
├── 認証サービスの分離
├── 共有データベースの維持
└── 内部通信の確立

Phase 4: データ分離(リスク:高)
├── データベースの分割
├── データ同期の実装
└── トランザクション管理

Phase 5: 完全分離(リスク:中)
├── 独立デプロイの実現
├── 監視の分離
└── フェイルオーバーの設定

チェックポイントによる変更履歴管理

チェックポイントは、Agentが行った変更の履歴を管理し、任意の時点に戻れる機能です。

チェックポイントの仕組み

Agentがタスクを実行する際、重要な変更点で自動的にチェックポイントが作成されます。チェックポイントには以下の情報が含まれます。

  • 変更されたファイルの一覧
  • 各ファイルの変更前後の内容
  • 実行されたコマンド
  • タイムスタンプ
flowchart LR
    A[初期状態] --> B[チェックポイント1]
    B --> C[チェックポイント2]
    C --> D[チェックポイント3]
    D --> E[現在の状態]
    
    E -.->|ロールバック| C
    E -.->|ロールバック| B

チェックポイントの確認

Agentパネルから、作成されたチェックポイントの一覧を確認できます。各チェックポイントには以下の情報が表示されます。

  • チェックポイント番号
  • 作成日時
  • 変更の概要
  • 影響を受けたファイル数

手動でのチェックポイント作成

重要な変更の前に、手動でチェックポイントを作成することも可能です。

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プロンプト:
現在の状態でチェックポイントを作成してください。
この後、データベーススキーマを大幅に変更します。

以前の状態への復元

問題が発生した場合、チェックポイントを使って以前の状態に復元できます。

復元の手順

  1. Agentパネルでチェックポイント一覧を開く
  2. 復元したいチェックポイントを選択
  3. 「Restore」をクリック
  4. 確認ダイアログで「Yes」を選択

部分的な復元

特定のファイルのみを復元することも可能です。

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プロンプト:
チェックポイント3から @src/services/auth.service.ts のみを復元してください。
他のファイルは現在の状態を維持してください。

復元時の注意点

復元を行う際は、以下の点に注意してください。

注意点 説明 対策
依存関係 復元により他のファイルとの整合性が崩れる可能性 関連ファイルも含めて復元
ターミナル操作 実行されたコマンドは取り消されない npm installなどは手動で再実行
外部システム DBやAPIへの変更は復元されない マイグレーションのロールバックが必要

Gitとの連携

チェックポイントはGitのコミットとは独立していますが、併用することでより堅牢な変更管理が可能です。

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推奨ワークフロー:
1. 作業開始時にGitブランチを作成
2. Agentによる変更(チェックポイントが自動作成)
3. 問題なければGitコミット
4. 問題あればチェックポイントで復元
5. 最終的にメインブランチにマージ

マルチエージェントでの活用

Cursor 2.0で導入されたマルチエージェント機能と組み合わせることで、より効率的なタスク実行が可能です。

マルチエージェントの概要

1つのプロンプトに対して、最大8つのAgentを並行実行できます。各Agentは git worktrees またはリモートマシンを利用して、コードベースの独立したコピー上で動作します。

flowchart TD
    A[タスク] --> B{分割}
    B --> C[Agent 1<br>認証機能]
    B --> D[Agent 2<br>API実装]
    B --> E[Agent 3<br>テスト作成]
    C --> F{マルチエージェント判定}
    D --> F
    E --> F
    F --> G[最適なソリューション選択]

マルチエージェント判定

Cursor 2.2では、複数のAgentを並列実行した場合、すべての実行結果を自動で評価し、最適なソリューションを推薦する機能が追加されました。

選ばれたAgentには、その理由を説明するコメントが付きます。これにより、複数のアプローチを試して最良の結果を得ることができます。

To-doとマルチエージェントの組み合わせ

To-doリストの各項目を異なるAgentに割り当てることで、並列実行が可能です。

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プロンプト:
以下のTo-doリストの項目を並列で実行してください:
- Agent 1: データベーススキーマの設計
- Agent 2: APIエンドポイントのスタブ作成
- Agent 3: テストケースの作成

完了後、結果を統合してください。

バックグラウンドでのプラン実行

Cursor 2.0では、プランの実行をバックグラウンドで行う機能が追加されました。

バックグラウンド実行の利点

  • 他の作業を並行して進められる
  • 長時間のタスクをブロックしない
  • 複数のプランを同時に実行可能

実行モードの選択

プラン実行時に、以下のモードを選択できます。

モード 説明 推奨シーン
Foreground アクティブに進捗を監視 対話的な修正が必要な場合
Background バックグラウンドで実行 確立されたタスク、長時間処理

Cloud Agentsの活用

Pro以上のプランでは、Cloud Agentsを使用してクラウド上でAgentを実行できます。これにより、ローカルマシンのリソースを消費せずに、長時間のタスクを実行できます。

実践:大規模リファクタリングのワークフロー

実際のシナリオを通じて、To-doとチェックポイントの活用方法を確認しましょう。

シナリオ:レガシーAPIのモダナイゼーション

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プロンプト:
このプロジェクトのREST APIをモダナイズしてください。
以下の改善を行いたいです:
- Express.jsからFastifyへの移行
- Zodによるバリデーション導入
- 統一されたエラーハンドリング
- OpenAPI仕様の自動生成

まず詳細な計画を作成し、承認後に段階的に実行してください。
各フェーズの完了時にチェックポイントを作成してください。

生成された計画

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To-do リスト: REST APIモダナイゼーション

Phase 1: 準備(推定: 30分)
[ ] 1.1 現在のAPIエンドポイント一覧の作成
[ ] 1.2 既存テストの確認とカバレッジ測定
[ ] 1.3 Fastify、Zod、関連パッケージのインストール
    → チェックポイント作成

Phase 2: 基盤移行(推定: 1時間)
[ ] 2.1 Fastifyサーバーの初期設定
[ ] 2.2 ミドルウェアの移行(CORS、認証等)
[ ] 2.3 エラーハンドラーの実装
    → チェックポイント作成

Phase 3: エンドポイント移行(推定: 2時間)
[ ] 3.1 ユーザー関連API(/api/users/*)
[ ] 3.2 認証関連API(/api/auth/*)
[ ] 3.3 その他のAPI
    → 各グループ完了時にチェックポイント作成

Phase 4: バリデーション(推定: 1時間)
[ ] 4.1 Zodスキーマの定義
[ ] 4.2 各エンドポイントへの適用
[ ] 4.3 エラーメッセージのカスタマイズ
    → チェックポイント作成

Phase 5: ドキュメント(推定: 30分)
[ ] 5.1 OpenAPI仕様の自動生成設定
[ ] 5.2 Swagger UIの統合
[ ] 5.3 APIドキュメントの確認
    → 最終チェックポイント作成

実行と復元のフロー

flowchart TD
    A[Phase 1 完了] -->|チェックポイント1| B[Phase 2 開始]
    B --> C{問題発生?}
    C -->|はい| D[チェックポイント1に復元]
    C -->|いいえ| E[Phase 2 完了]
    E -->|チェックポイント2| F[Phase 3 開始]
    D --> B
    F --> G{問題発生?}
    G -->|はい| H[チェックポイント2に復元]
    G -->|いいえ| I[Phase 3 完了]
    H --> F
    I --> J[以降同様...]

期待される結果

本記事の内容を実践することで、以下の状態を達成できます。

  • To-do機能を使って複雑なタスクを構造化されたリストに分解できる
  • Plan Modeで計画をレビュー・修正してから実行できる
  • チェックポイントにより任意の時点の状態を保存し、必要に応じて復元できる
  • マルチエージェントと組み合わせて大規模タスクを効率的に実行できる
  • 問題発生時に安全にロールバックし、作業を継続できる

まとめ

Cursor AgentのTo-do機能とチェックポイントは、大規模な開発タスクを計画的かつ安全に進めるための強力なツールです。ポイントは以下の3点です。

  1. 計画的な実行: Plan Modeで計画を立て、承認後に段階的に実行
  2. 適切な作業分解: 単一責任の原則に従い、テスト可能な粒度でタスクを分解
  3. 安全な変更管理: チェックポイントで重要な状態を保存し、問題時に復元

これらの機能を活用することで、AI駆動開発のリスクを最小化しながら、大規模なリファクタリングや新機能実装を効率的に進められます。まずは小規模なタスクで試し、徐々に複雑なプロジェクトに適用していってください。

参考リンク