クラウドコンピューティングは、現代のシステム開発において欠かせない基盤技術となっています。本記事では、クラウドコンピューティングの基本的な定義から、サービスモデルの違い、オンプレミス環境との比較、そしてAWSを採用するメリットと責任共有モデルまでを体系的に解説します。
クラウドコンピューティングとは
クラウドコンピューティングとは、インターネットを経由してサーバー、ストレージ、データベース、ネットワーキングなどのITリソースをオンデマンドで利用できるサービス形態です。物理的なハードウェアを自社で購入・保守する代わりに、必要な分だけ必要なときにリソースを調達し、従量課金で支払います。
米国国立標準技術研究所(NIST)は、NIST SP 800-145においてクラウドコンピューティングを以下のように定義しています。
クラウドコンピューティングは、共有された構成可能なコンピューティングリソース(ネットワーク、サーバー、ストレージ、アプリケーション、サービス)のプールに対して、ユビキタスで便利なオンデマンドのネットワークアクセスを可能にするモデルであり、最小限の管理労力またはサービスプロバイダーとのやり取りで、迅速にプロビジョニングおよびリリースできる。
NISTが定義するクラウドの5つの基本特性
NISTは、クラウドコンピューティングを特徴づける5つの基本特性を定義しています。これらの特性を理解することで、クラウドサービスの本質を把握できます。
オンデマンドセルフサービス
利用者は、サービスプロバイダーとの人的なやり取りなしに、必要に応じてコンピューティング能力を自動的にプロビジョニングできます。Webコンソールやコマンドラインからすぐにサーバーを立ち上げられる仕組みがこれに該当します。
幅広いネットワークアクセス
クラウドサービスはネットワーク経由で利用可能であり、標準的な仕組みを通じてさまざまなデバイス(PC、タブレット、スマートフォン)からアクセスできます。
リソースのプーリング
プロバイダーのコンピューティングリソースはプールされ、マルチテナントモデルを使用して複数の利用者に提供されます。利用者は通常、提供されるリソースの正確な場所を制御したり知ることができませんが、国やリージョンなどのより高い抽象度での指定は可能です。
迅速な拡張性(Rapid Elasticity)
コンピューティング能力を迅速かつ弾力的にプロビジョニングおよび解放できます。利用者にとって、利用可能な能力は無限に見え、いつでも任意の量を調達できるように見えます。
計測可能なサービス
クラウドシステムは、計量機能を活用してリソースの使用を自動的に制御し最適化します。使用量を監視、制御、報告することで、プロバイダーと利用者の両方に透明性を提供します。
クラウドのサービスモデル(IaaS / PaaS / SaaS)
クラウドサービスは、提供されるリソースの抽象度によって3つのモデルに分類されます。
graph TB
subgraph "IaaS (Infrastructure as a Service)"
I1[仮想サーバー]
I2[ストレージ]
I3[ネットワーク]
end
subgraph "PaaS (Platform as a Service)"
P1[OS / ミドルウェア]
P2[ランタイム環境]
P3[開発ツール]
end
subgraph "SaaS (Software as a Service)"
S1[アプリケーション]
S2[データ管理]
end
I1 --> P1
P1 --> S1IaaS(Infrastructure as a Service)
IaaSは、仮想マシン、ストレージ、ネットワークなどの基盤インフラをサービスとして提供します。利用者はOS以上の層を自由に構成でき、最も柔軟性が高いモデルです。
| AWSでの例 | 説明 |
|---|---|
| Amazon EC2 | 仮想サーバー |
| Amazon EBS | ブロックストレージ |
| Amazon VPC | 仮想ネットワーク |
IaaSの特徴として、利用者はOSの選択、セキュリティパッチの適用、ミドルウェアのインストールなどを自由に行えます。その分、運用責任も大きくなります。
PaaS(Platform as a Service)
PaaSは、アプリケーションの実行環境やデータベースをサービスとして提供します。OS、ミドルウェア、ランタイムの管理はプロバイダーが行うため、開発者はアプリケーションコードの開発に集中できます。
| AWSでの例 | 説明 |
|---|---|
| AWS Elastic Beanstalk | Webアプリケーション実行環境 |
| Amazon RDS | マネージドデータベース |
| AWS Lambda | サーバーレス実行環境 |
SaaS(Software as a Service)
SaaSは、完成されたアプリケーションをサービスとして提供します。利用者はインフラやプラットフォームを意識することなく、ブラウザなどからアプリケーションを利用できます。
| 代表的な例 | 説明 |
|---|---|
| Amazon WorkSpaces | 仮想デスクトップ |
| Amazon Chime | ビジネスコミュニケーション |
| Gmail / Microsoft 365 | メール・オフィススイート |
オンプレミスとクラウドの違い
オンプレミス環境とクラウド環境の違いを理解することで、クラウドの価値をより明確に把握できます。
| 比較項目 | オンプレミス | クラウド |
|---|---|---|
| 初期コスト | 高額(サーバー購入、データセンター構築) | 低額(利用開始時の費用はほぼゼロ) |
| 運用コスト | 固定費(減価償却、保守契約) | 変動費(従量課金) |
| スケーリング | 数週間〜数ヶ月(調達・設置) | 数分〜数時間 |
| 可用性 | 自社で設計・構築が必要 | マネージドサービスで容易に実現 |
| セキュリティ | 全レイヤーを自社で管理 | 責任共有モデル |
| 技術の更新 | 機器のライフサイクルに依存 | 常に最新技術にアクセス可能 |
オンプレミスの課題
オンプレミス環境では、以下のような課題が発生しがちです。
- キャパシティプランニングの難しさ: 将来の需要を予測してハードウェアを調達する必要があるため、過剰投資や容量不足のリスクがあります
- 調達リードタイム: サーバーの発注から設置まで数週間から数ヶ月かかることがあります
- 運用負荷: ハードウェア障害対応、ファームウェア更新、物理的なセキュリティ管理など、多岐にわたる作業が必要です
- 技術的陳腐化: 一度購入した機器は通常5年程度使用するため、最新技術の採用が遅れます
クラウドによる解決
クラウドを活用することで、これらの課題を解決できます。
- 必要なときに必要な分だけ: 需要の変動に合わせてリソースを増減できます
- 即座に利用開始: 数分でサーバーを起動し、サービスを開始できます
- 運用負荷の軽減: 物理レイヤーの管理はプロバイダーに委託できます
- 常に最新技術: 新しいサービスや機能が継続的にリリースされます
AWSを選ぶメリット
Amazon Web Services(AWS)は、世界最大規模のクラウドプロバイダーとして、多くの企業に採用されています。AWSを選択する主なメリットを解説します。
豊富なサービスラインナップ
AWSは200以上のフル機能サービスを提供しており、コンピューティング、ストレージ、データベースから、機械学習、IoT、セキュリティまで、あらゆるワークロードに対応できます。
グローバルインフラストラクチャ
AWSは世界中にリージョンとアベイラビリティゾーン(AZ)を展開しており、低レイテンシーでのサービス提供や、地理的冗長性の確保が可能です。日本には東京リージョンと大阪リージョンがあり、データ主権の要件にも対応できます。
従量課金モデル
AWSは「使った分だけ支払う」従量課金モデルを採用しています。初期投資なしでサービスを開始でき、使用量に応じてコストが変動するため、ビジネスの成長に合わせた柔軟な投資が可能です。
# EC2インスタンスの料金例(東京リージョン、2026年1月時点)
t3.micro: $0.0104/時間 → 月額約$7.5(常時稼働時)
t3.small: $0.0208/時間 → 月額約$15(常時稼働時)
継続的なイノベーション
AWSは毎年数千もの新機能やサービスをリリースしています。最新の技術動向を常にキャッチアップでき、競争力のあるシステムを構築できます。
エコシステムとコミュニティ
AWSには豊富なドキュメント、チュートリアル、トレーニングプログラムが用意されています。また、パートナー企業による導入支援や、活発なコミュニティによる情報共有も充実しています。
責任共有モデル
AWSを利用する上で必ず理解しておくべき概念が「責任共有モデル(Shared Responsibility Model)」です。これは、セキュリティとコンプライアンスに関する責任をAWSと利用者で分担する考え方です。
AWSの責任:クラウド「の」セキュリティ
AWSは、クラウドインフラストラクチャ自体のセキュリティに責任を持ちます。
- 物理的なデータセンターのセキュリティ
- ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーキングの管理
- ハイパーバイザーの管理
- リージョン、アベイラビリティゾーン、エッジロケーションの運用
利用者の責任:クラウド「における」セキュリティ
利用者は、クラウド上で構築・運用するシステムのセキュリティに責任を持ちます。
- ゲストOSの管理(パッチ適用、設定)
- アプリケーションソフトウェアの管理
- セキュリティグループの設定
- データの暗号化
- IAMによるアクセス管理
- ネットワークトラフィックの保護
サービスによる責任範囲の違い
責任の範囲は、利用するサービスの種類によって異なります。
graph TB
subgraph "責任範囲の比較"
direction LR
subgraph "EC2(IaaS)"
EC2_AWS[AWS責任<br/>物理インフラ<br/>ハイパーバイザー]
EC2_Customer[顧客責任<br/>OS/ミドルウェア<br/>アプリ/データ]
end
subgraph "RDS(PaaS)"
RDS_AWS[AWS責任<br/>物理インフラ<br/>OS/DBエンジン]
RDS_Customer[顧客責任<br/>DBスキーマ<br/>アクセス制御]
end
subgraph "S3(マネージド)"
S3_AWS[AWS責任<br/>インフラ全般<br/>データ永続性]
S3_Customer[顧客責任<br/>バケットポリシー<br/>暗号化設定]
end
endEC2のようなIaaSサービスでは、OS以上の層は利用者の責任となります。一方、RDSのようなマネージドサービスでは、OSやDBエンジンの管理はAWSが行うため、利用者の責任範囲は縮小します。
まとめ
本記事では、クラウドコンピューティングの基礎からAWSのメリットまでを解説しました。
- クラウドコンピューティングは、ITリソースをオンデマンドでネットワーク経由で利用するモデルです
- NISTが定義する5つの基本特性(オンデマンドセルフサービス、幅広いネットワークアクセス、リソースプーリング、迅速な拡張性、計測可能なサービス)がクラウドを特徴づけます
- IaaS/PaaS/SaaSの3つのサービスモデルがあり、抽象度と責任範囲が異なります
- クラウドはオンプレミスの課題(初期コスト、スケーリング時間、運用負荷)を解決します
- AWSは豊富なサービス、グローバルインフラ、従量課金などのメリットを提供します
- 責任共有モデルにより、AWSと利用者がセキュリティの責任を分担します
次の記事では、AWSのグローバルインフラストラクチャ(リージョン、アベイラビリティゾーン、エッジロケーション)について詳しく解説します。