AWSは世界最大規模のクラウドインフラストラクチャを展開しています。本記事では、AWSのグローバルインフラストラクチャを構成するリージョン、アベイラビリティゾーン(AZ)、エッジロケーションの概念と役割を解説します。適切なリージョン選択の考慮点や、Local Zones、AWS Outpostsなどの最新インフラソリューションも紹介します。
AWSグローバルインフラストラクチャの概要
AWSは、世界中にデータセンターを配置し、高可用性と低レイテンシーを実現するグローバルインフラストラクチャを提供しています。2026年1月時点で、AWSクラウドは38のリージョン内に120のアベイラビリティゾーンを展開しており、サウジアラビア、チリ、AWS European Sovereign Cloudでの追加リージョン計画も発表されています。
AWSのグローバルインフラストラクチャは、以下の3つの主要コンポーネントで構成されています。
| コンポーネント | 説明 | 数(2026年1月時点) |
|---|---|---|
| リージョン | 地理的に独立したデータセンター群 | 38 |
| アベイラビリティゾーン(AZ) | リージョン内の独立したデータセンター | 120以上 |
| エッジロケーション | コンテンツ配信用のPOP | 750以上 |
graph TB
subgraph "AWSグローバルインフラストラクチャ"
subgraph "リージョン(例:ap-northeast-1)"
subgraph "AZ-a"
DC1[データセンター群]
end
subgraph "AZ-c"
DC2[データセンター群]
end
subgraph "AZ-d"
DC3[データセンター群]
end
end
EL[エッジロケーション]
LZ[Local Zones]
end
DC1 <-->|低レイテンシー接続| DC2
DC2 <-->|低レイテンシー接続| DC3
DC1 <-->|低レイテンシー接続| DC3リージョン(Region)
リージョンとは、AWSがサービスを提供する地理的に独立したロケーションです。各リージョンは完全に独立しており、データやサービスがリージョン間で自動的に複製されることはありません。
リージョンの特徴
リージョンには以下の特徴があります。
- 地理的独立性: 各リージョンは物理的に離れた場所に配置され、自然災害や大規模障害の影響を局所化します
- データの独立性: リージョン間でデータは自動的に複製されません。データ主権やコンプライアンス要件に対応できます
- サービスの独立性: 一部のグローバルサービス(IAM、Route 53、CloudFront)を除き、サービスはリージョン単位で提供されます
- 料金の違い: 同じサービスでもリージョンによって料金が異なります
主要なリージョン一覧
AWSは世界各地にリージョンを展開しています。以下は主要なリージョンの一覧です。
| リージョン名 | リージョンコード | AZ数 |
|---|---|---|
| 東京 | ap-northeast-1 | 4 |
| 大阪 | ap-northeast-3 | 3 |
| シンガポール | ap-southeast-1 | 3 |
| シドニー | ap-southeast-2 | 3 |
| ソウル | ap-northeast-2 | 4 |
| ムンバイ | ap-south-1 | 3 |
| バージニア北部 | us-east-1 | 6 |
| オレゴン | us-west-2 | 4 |
| フランクフルト | eu-central-1 | 3 |
| アイルランド | eu-west-1 | 3 |
日本のリージョン
日本国内には、東京リージョン(ap-northeast-1)と大阪リージョン(ap-northeast-3)の2つが存在します。
東京リージョン(ap-northeast-1)
東京リージョンは2011年に開設された、アジアパシフィックで最も歴史のあるリージョンの1つです。4つのアベイラビリティゾーン(ap-northeast-1a、ap-northeast-1c、ap-northeast-1d、ap-northeast-1f)を持ち、AWSの全サービスのほとんどが利用可能です。
大阪リージョン(ap-northeast-3)
大阪リージョンは2021年にフルリージョンとして開設されました。3つのアベイラビリティゾーンを持ち、東京リージョンとの組み合わせで国内DRサイトの構築が可能です。地理的に離れているため、首都圏の大規模災害時のバックアップとしても活用できます。
アベイラビリティゾーン(Availability Zone)
アベイラビリティゾーン(AZ)とは、1つのリージョン内に存在する、物理的に分離された1つ以上のデータセンターの集合体です。各AZは独立した電力供給、冷却システム、物理的セキュリティを備えています。
AZの設計思想
AZは以下の設計思想に基づいて構築されています。
- 物理的な分離: 各AZは互いに数キロメートル以上離れており、停電、落雷、洪水、地震などの局所的な障害の影響を受けにくい設計です
- 高速なAZ間接続: 同一リージョン内のAZ間は、専用の高帯域幅・低レイテンシーネットワークで接続されています。AZ間の通信レイテンシーは通常1ミリ秒以下です
- 冗長性の確保: 各AZは独立したネットワーク接続、電力供給を持ち、単一障害点を排除しています
マルチAZ構成のメリット
複数のAZにリソースを分散配置するマルチAZ構成を採用することで、高可用性を実現できます。
graph TB
subgraph "リージョン(ap-northeast-1)"
subgraph "AZ-a"
EC2_A[EC2インスタンス]
RDS_P[(RDS プライマリ)]
end
subgraph "AZ-c"
EC2_B[EC2インスタンス]
RDS_S[(RDS スタンバイ)]
end
ALB[Application Load Balancer]
end
User[ユーザー] --> ALB
ALB --> EC2_A
ALB --> EC2_B
RDS_P <-->|同期レプリケーション| RDS_SマルチAZ構成の主なメリットは以下の通りです。
| メリット | 説明 |
|---|---|
| 高可用性 | 1つのAZで障害が発生しても、他のAZでサービスを継続できる |
| 障害耐性 | 物理的な災害(停電、火災など)の影響を局所化できる |
| 自動フェイルオーバー | RDSマルチAZなど、自動でスタンバイに切り替わるサービスがある |
| 同期レプリケーション | 低レイテンシーのAZ間接続により、データの同期複製が可能 |
AZのIDとAZ名
AWSでは、AZは「ap-northeast-1a」のような名前で表示されますが、この名前は各AWSアカウントでランダムにマッピングされています。これは、特定のAZに負荷が集中することを防ぐためです。
物理的なAZを特定するには、AZ IDを使用します。AZ IDは「apne1-az1」のような形式で、すべてのアカウントで同じ物理的な場所を指します。
|
|
エッジロケーション
エッジロケーションは、Amazon CloudFrontやAWS Global Acceleratorなどのサービスが利用する、世界中に分散配置されたデータセンターです。リージョンやAZとは異なり、エンドユーザーに近い場所でコンテンツをキャッシュし、低レイテンシーでの配信を実現します。
エッジロケーションの役割
エッジロケーションは主に以下の役割を担います。
- コンテンツキャッシュ: CloudFrontがオリジンサーバーから取得したコンテンツをキャッシュし、ユーザーに近い場所から配信します
- DDoS対策: AWS Shieldと連携し、エッジでDDoS攻撃を緩和します
- DNS解決: Route 53のDNSクエリをエッジロケーションで処理し、低レイテンシーで応答します
- アクセス高速化: AWS Global Acceleratorがエッジロケーションを経由してAWSネットワークへの最適な経路を提供します
リージョナルエッジキャッシュ
エッジロケーションとオリジンサーバーの間には、リージョナルエッジキャッシュと呼ばれる中間層が存在します。リージョナルエッジキャッシュは、エッジロケーションよりも大きなキャッシュ容量を持ち、アクセス頻度が低いコンテンツでも長期間キャッシュを保持できます。
graph LR
User[ユーザー] --> EL[エッジロケーション]
EL --> REC[リージョナルエッジキャッシュ]
REC --> Origin[オリジンサーバー]
EL -->|キャッシュヒット| User
REC -->|キャッシュヒット| ELLocal Zones
AWS Local Zonesは、特定の都市圏でAWSのコンピューティング、ストレージ、データベースなどのサービスをエンドユーザーの近くで提供するインフラストラクチャです。10ミリ秒未満のレイテンシーが要求されるアプリケーションに適しています。
Local Zonesのユースケース
Local Zonesは以下のようなユースケースで活用されます。
- メディア制作: 映像編集やレンダリングなど、低レイテンシーが必要なクリエイティブワークフロー
- リアルタイムゲーミング: マルチプレイヤーゲームサーバーの配置
- 機械学習推論: エッジでのリアルタイム推論処理
- ライブストリーミング: 低遅延でのライブ配信
Local Zonesの展開状況
2026年1月時点で、Local Zonesは世界35の都市圏で利用可能です。米国内で17か所、米国外では18か所(オークランド、バンコク、北京、ブエノスアイレス、コペンハーゲン、デリー、ハンブルク、ヘルシンキ、コルカタ、ラゴス、リマ、マニラ、マスカット、パース、ケレタロ、サンティアゴ、台北、ワルシャワ)で展開されています。
AWS Outposts
AWS Outpostsは、AWSのインフラストラクチャとサービスをオンプレミス環境で利用できるようにするフルマネージドサービスです。データレジデンシー要件や超低レイテンシー要件がある場合に活用されます。
Outpostsの特徴
- AWSと同一のAPI: オンプレミスでもAWSと同じAPIやツールを使用してリソースを管理できます
- AWSが管理: ハードウェアの保守や運用はAWSが担当します
- リージョンとの接続: 親リージョンと高帯域幅で接続し、AWSサービスとシームレスに統合できます
AWS Wavelength
AWS Wavelengthは、5G通信事業者のネットワーク内にAWSのコンピューティングとストレージを配置するサービスです。5Gデバイスからの超低レイテンシーアクセスを実現します。
Wavelengthのユースケース
- AR/VRアプリケーション: 没入型体験に必要な超低レイテンシー処理
- コネクテッドカー: 車両からのリアルタイムデータ処理
- IoTアプリケーション: センサーデータのエッジ処理
リージョン選択の考慮点
新しいワークロードをAWSにデプロイする際、適切なリージョンを選択することは重要な設計判断です。以下の要素を考慮してリージョンを選択します。
レイテンシー
エンドユーザーやオンプレミスシステムとの通信レイテンシーを最小化するため、地理的に近いリージョンを選択します。
|
|
コンプライアンスとデータ主権
業界規制や法律により、特定の地域内でデータを保管する必要がある場合があります。
| 要件 | 推奨リージョン |
|---|---|
| 日本国内でのデータ保管 | 東京(ap-northeast-1)、大阪(ap-northeast-3) |
| EU GDPRへの対応 | フランクフルト、アイルランド、パリなど |
| 中国でのサービス提供 | 北京、寧夏(AWS中国リージョン) |
サービス可用性
すべてのAWSサービスが全リージョンで利用できるわけではありません。使用予定のサービスが目的のリージョンで提供されているかを事前に確認します。
AWSは「リージョン別サービス一覧」ページで、各リージョンで利用可能なサービスを公開しています。
コスト
同じサービスでもリージョンによって料金が異なります。東京リージョンは米国リージョンと比較して10〜20%程度高い傾向があります。コスト最適化が重要な場合は、要件を満たす範囲で安価なリージョンを検討します。
災害対策(DR)
ビジネス継続性のために、プライマリリージョンとは異なる地理的位置にDRサイトを構築することが推奨されます。日本国内では、東京リージョンと大阪リージョンを組み合わせたDR構成が一般的です。
graph TB
subgraph "東京リージョン(プライマリ)"
TK_APP[アプリケーション]
TK_DB[(データベース)]
end
subgraph "大阪リージョン(DR)"
OS_APP[アプリケーション]
OS_DB[(データベース)]
end
TK_DB -->|クロスリージョン<br>レプリケーション| OS_DB
Route53[Route 53] --> TK_APP
Route53 -.->|フェイルオーバー| OS_APPまとめ
本記事では、AWSのグローバルインフラストラクチャについて解説しました。
- リージョンは地理的に独立したデータセンター群であり、2026年1月時点で世界38か所に展開されています
- **アベイラビリティゾーン(AZ)**はリージョン内の物理的に分離されたデータセンター群で、マルチAZ構成により高可用性を実現できます
- エッジロケーションはCloudFrontなどのサービスがコンテンツをキャッシュし、低レイテンシー配信を実現する拠点です
- Local Zones、AWS Outposts、Wavelengthなどの追加インフラソリューションにより、さまざまなレイテンシー要件やデータレジデンシー要件に対応できます
- リージョン選択では、レイテンシー、コンプライアンス、サービス可用性、コスト、DR要件を総合的に考慮します
次の記事では、AWSのセキュリティの要となるIAM(Identity and Access Management)について解説します。